歎異抄とは
歎異抄とは 歎異抄の写本について 歎異抄の版本について


歎異抄とは  

 親鸞(1173〜1262)の教えた真実信心に異なっていることを歎き、親鸞の教えに帰ることを呼びかける書物である。
 本書には作者名が記されていないために、古くから作者について推測されてきたが、最近では本文中に名前の出る唯円(ゆいえん)であることが、定説となっている。唯円は関東の河和田(現在の茨城県水戸市)の人で、親鸞から直接に教えを受けた門弟の一人である。
 親鸞滅後、直弟子の多くがこの世を去っていく中で、師である親鸞の教えがその趣旨と異なって理解されていくという現状を歎き、師の教えを改めて明らかにしたいという願いが本書を生み出したのである。
 本書は序と本文18条と結語からなり、本文は前半と後半とに大きく分けることができる。前半の10条は師訓篇とも呼ばれ、作者の耳の底にとどまって決して忘れることのできない親鸞の言葉を集めている。後半の8条は歎異篇とも呼ばれ、前半に掲げた親鸞の言葉に依りながら、実際に起こっている異なった見解をあげて、真実信心を見失っていることを批判している。そして結語には、そのような異義が起こってくる原因を「信心の異なり」として押さえ、お互いが自分の立場を正当化し、迷いを深めていくことの痛ましさを訴えている。
 本書は、作者が自分を正義の立場に置いて、他の異義を正していこうとするものではなく、どこまでも親鸞の教える同一の信心に立ち帰ることの重要性を示そうとしており、親鸞の思想の核心を知る上で、欠くことのできない大切な書物である。