2013年度 西蔵文献研究班 研究事業報告
2014.3.31
1. チベット語文献の電子テキスト化
ツァンナクパ(12世紀)が著したダルマキールティ著『量決択』の注釈書(大谷蔵外 No. 13971)の電子テクストについて校訂・編集作業を進めた。科文を整理し、『量決択』の注釈箇所や引用の典拠を特定して校訂テキストに注記した。2013年度は第2章の公開をした。また、福田洋一(研究員)、石田尚敬(嘱託研究員)を中心として訳注作成のための研究会を開催した。
『サンプ明鏡史』(大谷蔵外 No. 13981)については、 西沢史仁(嘱託研究員)が校訂テキストと和訳を作成し、研究会を開催して、その検討を行った。その結果の校訂本と和訳は、来年度(2014年度)刊行する予定である。
また、『倶舎論語義解明・善説の陽光』(藏外No. 13972)の電子テキスト入力が完了し、本年度末にWeb上にて公開した。
2. 北京版チベット大蔵経の写真撮影とネット上での公開方法の検討
北京版チベット大蔵経の写真撮影については、その方法等を班内で検討したものの、具体的に撮影をするには様々な問題があることがわかり、実現するには至らなかった。
3. パーリ語貝葉写本のデジタル化
大谷大学図書館藏稀覯写本『マハーブッダグナンヴァータ・アッタカター(Mahābuddhaguṇanvāta aṭṭhakathā)』については、清水洋平(嘱託研究員)と船橋智哉氏によりクメール文字からローマ字への転写が完了した。作成したローマ字転写テキストは、清水洋平・舟橋智哉「Mahābuddhaguṇa aṭṭhakathā(『偉大なる仏徳の註釈』)ークメール文字からのローマ字転写テキストー」 (『大谷大学真宗総合研究所研究紀要』31号, 2014.3, pp.251-303) に掲載した。
大谷大学所蔵のパーリ語貝葉写本の来歴を明らかにする可能性のある13世紀のクメール文字パーリ語貝葉写本が長崎県平戸市に存在することがわかり、清水洋平が3月12日~3月14日の日程で調査をおこなう予定である。また、清水は3月16日~3月22日の日程で、タイのバンコクにて稀覯写本の調査をおこなう予定である。
4. 寺本婉雅の日記の翻刻
村岡家所蔵・寺本婉雅関連資料に含まれる寺本婉雅の二種類の日記のうち、刊行済みの『蔵蒙旅日記』(芙蓉書房、1974年)では記述の薄い、あるいは記述のない1899.9.1~1900.12.31[最終記事は1900.7.27]間の日記『新旧年月事記』の翻刻が終了した。翻刻は高本康子(嘱託研究員)が担当し、難読箇所については三宅伸一郎(研究員)とともに現物を確認し、確定作業をおこなった。こうして作成された翻刻は、解題を付して髙本康子・三宅伸一郎「寺本婉雅日記『新旧年月事記』翻刻」(『大谷大学真宗総合研究所研究紀要』31号, 2014.3, pp.143-186) に掲載した。
また、もう一種類の日記『第二回西蔵探検日記(在北京之部)』(2冊。1901年11月~1902年7月までの日記)についても、来年度の翻刻作業の準備として、スキャンしてPDF化をおこなった。
5. 海外の研究者、研究機関との交流
2013年7月1日にモンゴル国立大学社会科学部との間で締結された学術交流協定に基づき、共同研究「モンゴルにおける仏教の後期発展期(13世紀~17世紀)の仏教寺院の考古学・歴史学・宗教学的研究」を開始した。今年度は、松川節(研究員)、武田和哉(嘱託研究員)、三宅伸一郎が参加して、8月7日~8月16日に、モンゴル国ドンドゴビ県のスム・フフ・ブルド寺址、オボルハンガイ県のホグノ・タルニィン・オブゴン寺址、オボルハンガイ県のハル・バルガス遺蹟、ノゴーン・バルガス遺蹟、ボルガン県のハルボハ都城址の共同調査をおこなった。松川は『大谷大学真宗総合研究所研究所報』No.63(pp.50-53)にその報告を掲載した。
7月21日~27日にモンゴル国立大学で開催された第13回国際チベット学会に、松川節と三宅伸一郎が参加した。松川は「New Perspective on the Historical Evidences and archeological foundings from Monastery Erdene-Zuu(エルデネ=ゾー寺院出土考古遺物と歴史史料の統合によるモンゴル仏教史構築への新たな展望)」というテーマで、モンゴル語による報告を、三宅は「A mdo mā yang dgon pa’i bla ma dang ye shu chos lugs spel mkhan bol hel bar gyi chos rtsod skor(アムド・マーヤン寺のラマとキリスト教宣教師ポルヘルとの宗教議論について)」というテーマで、チベット語による報告をおこなった。本学会の参加報告は、三宅が『大谷大学真宗総合研究所研究所報』No.63(pp.36-37)に掲載した。
7月2日~7月8日にポルトガルのリスボンで開催された第5回ヨーロッパ東南アジア学会議(5th European Association for South East Asian Studies Conference)に清水洋平が参加し、写本などの第一次資料の研究をテーマにしたパネル(Panel 95: Digging up Hidden Sources: The Changing Roles of Libraries and Archives in Southeast Asian Studies)において、「Importance of Primary Source Materials: With a Special Reference to the Buddhist Manuscripts of Thailand」とのタイトルで研究発表をおこなった。
以上のように、海外での調査研究・国際学会での研究発表をおこなうとともに、以下のように、海外のチベット学研究者を招いて公開研究会を開催した。
(1)6月18日 「歴代アジャ・リンポチェの事績について」講師:アジャ・リンポチェ=ロプサン・トゥプテン・ジクメー・ギャツォ師(A skya rin po che Blo bzang thub bstan ‘jigs med rgya mtsho、チベット・モンゴル仏教文化センター・センター長/元クンブム大僧院僧院長)[講演内容については、三宅伸一郎が『大谷大学真宗総合研究所研究所報』No.63(pp.47-48)において報告した]
(2)6月26日 「モンゴルにおけるチベット研究の歴史と現状」講師:M. ガントヤー博士(モンゴル国立大学社会科学部宗教研究学科長)[講演原稿はM.ガントヤー(松川節訳)「近年モンゴルにおける仏教研究概要」(『大谷大学真宗総合研究所研究紀要』31号, 2014.3, pp.237-250) に掲載]。
(3)12月19日 「ポン教聖地の現状について」講師:ツルティム・テンジン師(ティテン・ノルブツェ僧院瞑想学堂学堂長)
(4)3月7日 「モンゴルの仏教文献:ガンダン寺所蔵チベット語文献の概要」N.アムガラン氏(モンゴル国ガンダン寺学術文化研究所)